奄美黒糖焼酎、長寿を促進か 鹿児島大・国立がん研究センターなど共同チーム
2018年01月03日
社会・経済
サトウキビから作る黒糖と米を原料にした本格焼酎の奄美黒糖焼酎―。奄美群島が日本に復帰した1953年に酒税法の特例措置を受け、奄美群島にだけ製造が認められた唯一無二の奄美ブランドだ。その黒糖焼酎に長寿を促進させる成分が含まれている可能性が高いことが分かり、黒糖焼酎業界では期待が高まっている。研究を進めているのは、鹿児島大と国立がん研究センター、北海道大、岡山大の共同チーム。研究をけん引する鹿大医歯学総合研究科の乾明夫教授は「長寿促進成分が特定できれば、国内だけでなく海外展開への夢も広がる。成分特定を急ぎたい」と力を込めた。
■黒糖焼酎成分が長寿遺伝子を活性化
研究では、黒糖焼酎に含まれる成分が空腹ホルモン「グレリン」を増強し、健康寿命を延ばす可能性が高いとされる。乾教授は「カロリー制限が寿命を延ばす最大の要因。昔から言われてきた腹八分目が長寿を促進する。カロリー制限により、ハエやネズミ、さらにはサルやヒトを含めた多くの動物において、健康寿命が延長することが確認されている。このメカニズムに、胃から放出されるグレリンが関わっている」と指摘。
さらに「多くの実験でこのグレリンが長寿遺伝子サーチュイン1を活性化し動物の寿命を延ばすことを確認。黒糖焼酎がグレリンを増強することが実験で証明できている」と説明した。
実験では、黒糖焼酎から抽出した濃縮エキスを使用してグレリンが増強することを確認。乾教授は「黒糖焼酎に含まれる何らかの成分が、グレリンを介してサーチュイン1を活性化し、長寿を促進する可能性が高い」と説明し、「現在、黒糖焼酎の成分とサーチュイン1活性化の関係を直接証明するための実験を進めている。これまでの実験ではサトウキビの油脂が長寿を促進させる成分の一つではないかと考えている」と述べた。
■常圧製造に長寿促進成分多量
乾教授は奄美市名瀬の奄美大島酒造の協力を得て、同社の銘柄の全てから濃縮エキスを抽出。その際に最も長寿促進成分が多かったのが「浜千鳥乃詩」だったという。
同社の有村成生社長は「浜千鳥乃詩は昔ながらの常圧製法。新しい銘柄は飲みやすさを優先した減圧製法が多い。飲みやすさを優先すると独特な香りを和らげるためにろ過やたる貯蔵などの作業を加え、メーカー各社が特徴を引き出す。当然だが沸点が低い減圧製法は常圧製法と比較すると成分濃度も低い。ろ過機能なども加えない常圧製法は多くの成分が残る可能性も高い」と指摘した上で、「まだ可能性が高いだけで長寿促進成分が特定されたわけではない。現在の状況ではまだ黒糖焼酎のPRに生かせる段階ではない。成分が特定されることを願っている」と慎重な姿勢を見せた。
龍郷町の町田酒造は長寿促進成分を多く含む焼酎の開発に意欲を見せる。同社の長谷場洋一郎常務取締役製造開発本部長は「正式に開発に携わることが決定したわけではない」と説明しながらも、「黒糖焼酎に長寿を促進させる成分が含まれている可能性が高いことはメーカーにとっては魅力。開発の是非について早急に結論を出したい」と話した。
■高まる成分特定への期待
同社では黒糖焼酎製造の研究開発用に通常の25分の1サイズの各種製造機器を設置している。製造開発本部研究開発室の谷山健弘室長代理は「長寿促進成分を多く含む焼酎の開発が正式に決まれば、この施設であらゆる研究に着手することになる。成分が特定されれば常圧製造に関する新しい銘柄の研究開発が始まる可能性は高い」と述べ、正式な開発決定に期待を示した。
県酒造組合奄美支部としても期待は大きい。乾眞一郎支部長は「全国的にも黒糖焼酎はまだまだ認知不足。黒糖焼酎に健康長寿というイメージが定着することが再評価につながり、販路拡大への期待も高まる。業界としては現在、今年の世界自然遺産登録への期待やNHK大河ドラマの放映などの影響で交流人口拡大が予想される中、奄美を訪れる観光客に黒糖焼酎を広める千載一遇の機会ととらえている。さらに健康長寿の話題が加わることは願ってもないチャンス。一刻も早い成分特定をお願いしたい」と述べた。
さらに「黒糖焼酎は現在、飲みやすさを求めた減圧製法が主流。長寿促進成分の特定で常圧製法が再評価されれば、業界全体としてもありがたい。二つの製法が切磋琢磨することで業界全体も活性化する」と期待を込めた。