シャリンバイ確保困難 大島紬製造現場に暗雲 採取者の減少が影響
2021年11月28日
政治・行政
本場奄美大島紬の泥染めに欠かせない染料「テーチ木(シャリンバイ)」の採取業者が不足し、関係者は頭を悩ませている。高齢化のほか、チップ工場の閉鎖なども影響しているという。染色職人たちは、「国の伝統的工芸品である大島紬の存続にも関わる大きな問題だ」と警鐘を鳴らす。(榊原希望)
シャリンバイはバラ科シャリンバイ属の常緑低木。海岸付近の岩場や尾根筋に自生し、街路樹としても親しまれている。泥染めは植物のタンニン酸と泥田の鉄分の化学反応を利用した染色法で、タンニンを多く含むシャリンバイが利用されている。
使われるのは樹齢30年以上の木。地上から1㍍ほど残して枝を伐採、チップ状にし、釜で煮出した液を使用する。枝600キロで約2000リットルの染め液ができるという。奄美大島には泥染めを行う工房が8カ所あり、1カ月に計6000~7000キロ程度のシャリンバイが消費されている。
関係者によると、宇検村にあった島内唯一のチップ工場が昨年閉鎖したことも染料不足に影響している。以前はチップ用に皆伐した中からより分けたシャリンバイを購入できたためだ。現在はほとんどの染色業者がそれぞれ関係のある個人に依頼し、不足分を山から切り出してもらっているという。
月に2400~3000キロのシャリンバイを使用する龍郷町戸口の金井工芸では昨年、急きょ従業員総出でシャリンバイの採取を行った。同社代表で伝統工芸士の金井一人さん(63)は「伐採から時間がたつと色が出ず、夏場なら2~3週間内。その都度自分たちで切っていては労力とコストが見合わない」と話した。
同じく伝統工芸士で、同町戸口で「肥後染色 夢しぼり」を営む肥後英機さん(69)によると、山中でシャリンバイだけを選んで伐採し、運び出す場合、600㌔分を集めるのに2~4日かかる。採取する業者も高齢化が進み、「今は知り合いに頼み込んでなんとか確保している状態」という。
これまでに県や自治体の事業として、シャリンバイの植林が行われたこともある。肥後さんは「木は1度伐採した後10~15年ほどで再び使えるようになる。今後は植林、育成とともに、実際に木を利用するための方法もしっかり整備するべきだ」と指摘した。
大島紬は1300年の歴史を持つといわれ、泥染めは奄美の歴史、文化を語る際に欠かせない染色技法だ。職人らは「業界に限った話ではなく、今後奄美で泥染めを継承していけるかどうかが問われている」と訴えている。