TVドラマで謎解く鍵? 喜界島伝説「月と太陽」 ホノホシ海岸の丸石も
2021年02月07日
地域
刑事と殺人鬼の入れ替わった運命を描くTBSドラマ・日曜劇場「天国と地獄~サイコな2人~」(脚本・森下佳子)は、1月31日放送の第3話で奄美が登場した。入れ替わりにまつわる島の伝説を知った主人公が、謎を解くヒントを得るため奄美大島入り。殺人鬼が使ったとみられる凶器に似た丸い石を海岸(瀬戸内町・ホノホシ海岸)で見つけ、地元で「呪いの石」と呼ばれていることを知るという展開。入れ替わりの伝説は「月と太陽」の名で実在し、文献「喜界島昔話集」に記録されている。
ドラマはTBS系列(MBC)で毎週日曜午後9時から放送中。第3話までに、警視庁捜査一課の刑事・望月彩子が逮捕目前の殺人鬼・日高陽斗と不意に入れ替わり、日高の姿をしたまま逮捕されないよう証拠隠蔽(★いんぺい)などを図る中、望月の姿をした日高が再び殺人を犯すところまで描かれている。
2人の入れ替わりに気付いた望月の後輩刑事・八巻英雄は、日高が奄美大島行き航空券を持っていたことから、入れ替わりにまつわる島の伝説を発見。島へ向かった望月は、過去に日高が訪れたとされる集落などに行き、島民に伝説のことを聞いて回った。
伝説「月と太陽」を記録した文献「日本昔話記録12 鹿児島県喜界島昔話集」(1974年、三省堂)は、戦前、喜界島出身の故岩倉市郎氏が島内外で語り部から採録、民俗学者の故柳田國男氏が編集した書物の再版。島独自の伝説や南西諸島、日本本土にも通じる昔話107本を収録している。
この文献に記載された伝説「月と太陽」の内容は、おおむね次の通り。
本来、昼の太陽は夜の月であるべきで、夜の月は昼の太陽であるべきだった。というのは、ある夜、太陽と月が、寝ている間に腹の上で〝シヤカナロー〟の花が咲いた方が昼の太陽になろうと約束した。結果、〝シヤカナロー〟は月の腹に咲いたが、太陽はこっそり自分の腹に植え替えた。そのため太陽は昼に出ることとなったが、あらぬことをしたためまともに見られず、夜に出る月はいくらでもまともに見られるということだ。
文献に添えられた解説によれば、30年代に採録された伝説の語り部は当時すでに高齢。「月と太陽」と内容が近似する日本昔話は確認できないという。
〝シヤカナロー〟については、岩倉氏の著書「喜界島方言集」(41年、中央公論社)にも直結する表現が見当たらない。ドラマ第3話でも、島民は「伝説は伝説だから」、「聞いたことない。(夏の夜に咲く)サガリバナだと勝手に思ってる」とし、その正体は明らかになっていない。
喜界島の伝説に詳しい喜界町文化財保護審議会委員・外内淳さん(61)は「『月と太陽』は文献で知っていたが、ドラマに深く組み込まれていて驚いた。また伝説の文言がドラマ内の人物名や口癖『べき』と重なっていて面白い。〝シヤカナロー〟は実物もモデルの植物も知らず、架空としか思えない」と語った。
またドラマでは、望月が(ホノホシ)海岸で丸い石を拾い上げた際、島民から「石を持ち去ると呪われ、悪いことが起こる」と注意される一幕も。瀬戸内町立図書館・郷土館によると、ホノホシ海岸に「呪いの石」があると記録した書物はないが、石を持ち出すには、自然公園法や町自然保護条例、文化財保護条例に基づく届け出と許可が必要。
「伝説には何かの由来や教訓、地域性などが詰まっていて解釈にも幅がある。ドラマを機に奄美群島の歴史、文化への関心が高まるとうれしい」と外内さん。7日放送の第4話以降にも奄美は出るのか、伝説は物語にどう関わっているのか、今後の展開に注目したい。〝シヤカナロー〟に関する情報は南海日日新聞社報道部まで。